縄田正樹編集長 × 浅野紗紀 ~WonderNotes Inspire~刺激人
浅野:いろんな漫画家さんとのお仕事をしてきて、印象に残った出来事とかはありますか?
縄田:出来事ではないんですが、私が新入社員の時に最初に担当したのが手塚治虫先生だったんですよ。
浅野:えぇ~、すごい!!
縄田:手塚先生は『ビッグコミック』で連載を持っていらして、新入社員は「手塚番」って言って、新入社員が手塚先生の担当をやるんです。なぜかというと先生の原稿をとるのってものすごく大変で、先生の仕事場に泊まり込むんですよ。要するに、頭は使わなくていいから体力勝負で2日も3日も徹夜できる若い奴がやるんです。
私が担当した時に先生が亡くなられたこともあって、すごく印象深かったですね。担当させていただいた時は、「あの手塚治虫先生か!」と思ったし、実際にいろんな話をさせていただきました。亡くなられたのは非常に残念だったし、ショックだったのを覚えています。自分は結局その域まで達しなかったんですけど、ある先輩の編集に、「手塚治虫先生を担当して、ちゃんとできたらどんな漫画家の担当もできるよ」って言われましたね。
手塚先生の担当って体力勝負と言われているんですけど、本当はそれだけじゃなくて、内容を面白くするために非常に高度な編集テクニックが必要なんですよね。ていうのは、やっぱりものすごくレベルの高い先生なので、ちょっとした思いつきで話しても相手にもしてくれないわけですよ。だから手塚先生が作品に生かしたいよねって思うようなアイディアを持っていくっていうのはものすごく大変だし、ものすごく勉強しなければならないし、ものすごく考えなければならないわけなんです。
なおかつ一週間に30分くらいしか会えませんし。だからレポートをまとめて渡したりしていたわけです。そこで採用されたりすると、それを手塚先生は本当に面白く描くんです!とにかくそれくらいレベルの高い先生でした。ただ、自分としてはそこまで手塚先生とお付き合いさせていただくことはなく終わってしまったのは、非常に残念ですね。
浅野:また感動しちゃってます!本当に素晴らしいですね!
縄田:いえいえ。本当に運というか、縁があっただけで。
浅野:仕事をするうえでこれだけは譲れないということはありますか?
縄田:そんなにかっこいいものはないんですけど、でもやっぱり本当に面白いものを突き詰めないと面白いものってできないので、なんとなく流れとか、前例がこうだからって言ってやる仕事はダメですよね。徹底的に面白いのか、売れるのかっていうのを考えるようにしています。週刊誌って忙しいので、どうしても流されてしまうことがあるんですけど、忙しいところで一度立ち止まって、一生懸命考えることが大切だと思いますね。