三浦敏宏副編集長 × 足立悠馬 ~WonderNotes Inspire~刺激人
荻野:漫画雑誌の編集で喜びを感じる時はどんな時ですか?
三浦:多分、だいたいの人が同じことを言うと思うんですけど、担当している作家さんが売れたらやっぱり嬉しいですよね。逆に、新人が連載に失敗したり、漫画家を辞める人とかを見ると人生左右しちゃったかなって、申し訳ない気持ちになりますね。厳密に言うと僕だけのせいっていうとおこがましいし、少し違うかもしれないんですけどね。それはどの編集者も一番嫌なことなんじゃないですかね。
荻野:編集者になって今まで良かった思い出ってありますか?
三浦:良かったこと…。会社入って一年目とかは、「こんなに焼肉を食べに行くんだ!」って喜んでましたね。今までの人生で急に焼肉度が上がったんですよ(笑)。すごいびっくりして嬉しかったんですけど、2年目からは飽きちゃってね。まあ昔は、深夜は焼肉屋さんしかやってないこと多かったですし、若い作家さんはたいてい肉好きですし。
荻野:贅沢だけど、そうなりますよね(笑)。
三浦:学生の時、焼肉ってあんまり行かなかったんで。最初はすごい嬉しかったですね。後は、自分が関わっている雑誌とか、単行本とかを全然関係ない人が読んでいた時は感動しました。
荻野:それは、絶対感動しますよね!
三浦:電車の横で『ミスターマガジン』を読んでいる人に声を掛けたくなりましたね、「オレオレ!」って。でも、オチがついちゃうんですけど、自分が担当していた漫画は飛ばされちゃったんですけどね(笑)。
荻野:悲しいですね(笑)。でも、それは声掛けたくなりますよね。
三浦:今でも声掛けたくなりますもん!単行本は特にそうですね。
荻野:逆にもう絶対思い出したくない失敗談ってありますか?
三浦:失敗談ねぇ…。『ドカベン』とか描いていらっしゃる水島先生(水島新司)の所に1時間遅刻しちゃったことかなぁ。あの時は会社辞めようかと思いましたけどね。
荻野:マズイですね。
三浦:でも、全然怒ってらっしゃらなくて…。やっぱでかい人は違いますよね"器が"って恐縮した後で感動しました。水島先生って神宮でいつも草野球をなさっているんですよ。だからグラウンド集合なんですよ!
荻野:へぇ~!そうなんですか。
三浦:そこに行ったら水島先生は「よぉ!」とか言って全然普通なんですよね。それはもう、ついて行こうと思いましたね(笑)。
荻野:良い方なんですね。作家さんって個性豊かな方が多いというイメージがあるんですが、何か作家さんとのエピソードってありますか?
三浦:すごい人いますよ。個性的な人って言ったら、『魁!!クロマティ高校』の野中先生(野中英次)もすごい個性的ですよね。なにしろ漫画家になろうと思ったのが、20歳過ぎてからで、22歳か23歳で床屋さんに行って待っている間に『北斗の拳』の3巻を読んでおもしろいから漫画家になろうと思ったらしいんですよ。
荻野:えぇ!すごい!
三浦:しかも1巻じゃなくて3巻って(笑)。しかもほとんど漫画読まない人ですしね。珍しい人ですよね。
荻野:やっぱり作家の方ってちょっと変わっている人が多いんですか?
三浦:いい意味で変わっている人が多いですよね。久米田先生(*1)も、市川先生(*2)も、みんなちょっと変わってます。自由度が高いっていうか。面白い作品を描く作家さんはみんな間違いなくおもしろいです。笑えるとかじゃなく、いろんな意味でおもしろいです。
*1 久米田康治『週刊少年マガジン』で『さよなら絶望先生』を連載中
*2 市川マサ『週刊少年マガジン』で『A-BOUT!』を連載中
荻野:自分の世界を持っているというか。
三浦:そうそう。喋っていても話題の切り口とか、ものを見る目線とかも確実におもしろいですね。ただ、残念なのが、逆は必ずしも成立していなくて、おもしろい人がおもしろい漫画を描く訳じゃないんですよね。
荻野:なるほど。仕事をしている上で、これだけは譲れないというこだわりはありますか?
三浦:締め切りとか。そこだけは譲れない。あっ、でも落ちることもあるんで譲ってますね(笑)。こだわりってあるかなぁ。難しいことなんですけど、なるべく新しいものを見たいです。今まで無かったもの、既成概念を超えたものが見たいなと思っているので、そういう意味ではなるべくこだわらない様にしてますね。こだわると型にはめちゃうことがありますから。
ただ、なんでもかんでも新しければいいということとは別なので、必ずしもそうではないんですけどね。自分の枠の中よりおもしろいものが出てきたら、それをおもしろいと言える様に逆にこだわらない様にしていますかね。だから自分と違う、こだわりのある職人さんってかっこいいって思いますけどね。漫画家さんはこだわりを持ってもいいと思いますけど、編集者は持たなくてもいいと思いますね。