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吉原伸一郎編集者 × 足立悠馬 ~WonderNotes Inspire~刺激人

前編

後編

足立:へぇー。他にも漫画家さんたちのすごいエピソードっていうのがあれば聞かせて欲しいんですが。

吉原:漫画家さんはみんなすごいんです。天才です。でも“すごい”の方向はみんな違うからどう答えていいか迷うんですが、…例えば、僕は、東村アキコさんっていうギャグ漫画家の方も担当しているんですが、普通、ギャグ漫画描いている人って暗いんですよ。

足立:そうなんですか?

吉原:だいたい暗いんですよ。フラットな目線を持ってるというか、ネームを読んで「面白いです」って言っても「これ本当におもしろいですか?」って疑ってくるタイプの人が多いんです。でも、彼女は全然違いました。「うゎ、この人しゃべりまでいける!この才能を絶対にマンガ業界に収めておかないと駄目だ」って思いました(笑)。絶対テレビ業界に教えちゃいけないって。

足立:暗い人がギャグ漫画を描くってギャップありますね。

吉原:あのー、暗いっていうのとちょっと違っていて…、世の中を斜に見てるというか。冷静に見てる人…そうすごい常識人じゃないと、おもしろいギャグは描けない。僕がお会いした中で、唯一彼女はさらにその上をいく「常識を持っていてさらに相手を喜ばすトークもできる方」でした(笑)。スッゴイうまいんですよ、おしゃべり。

僕が、彼女の作品を初めて知ったのは青年誌の『アッパーズ』に在籍していた頃で、当時、集英社の『Cookie』っていう少女誌に連載していた『きせかえユカちゃん』っていう漫画を読んで、「この人、天才だな、青年誌でいけるんじゃないかな」と思ったんです。まずは編集部で流行らせようと思って、5~6巻出ていた『きせかえユカちゃん』を3セットくらい買って編集部で回し読みをしてもらって、編集部全体に「この作者に絶対会いに行くべきだよね」っていう空気を作ったんです(笑)

足立:それで、流行ったんですか?

吉原:はい、今の『モーニング』の50人くらいの部署じゃなくて、20人くらいの部署でしたが、普段少女漫画読まない後輩も「僕はおねえちゃん派です」と好きなキャラクターを告白するくらいに流行りました。でも、そこからが大変でした。

東村アキコさんの連絡先を正面切って集英社に聞くわけにいかないですから、どうしようか悩んでいて…もう一度、彼女のプロフィールを熟読したら「弟・漫画家」って載っていて、しかも『ヤンマガ』に持ち込んでいるって情報を掴みました。即『ヤンマガ』の先輩に電話して「すいません、東村アキコさんの弟さんで森繁拓真くんって漫画家がいるんですけど…」って言ったら「今、後ろにいるよ」って。

足立:偶然その場にいたんですか(笑)

吉原:そう。それで「すいません、お姉さんの電話番号教えてください・・・」っていう話をして、その時、彼女は大阪在住でした。

編集部に空気を作っていたおかげで、出張費がすぐでました。即大阪まで彼女に会いに行ったら『アッパーズ』が休刊になっちゃったんです。

だけど、僕はその時に彼女が本当に天才だと思ってたので、あきらめきれなくて、その時はまだ『モーニング』に行けるかわからなかったけど「もし僕が青年誌に移れたら絶対、描いてください。それまで他の青年誌から声がかかると思いますが、絶対に断ってください」ってお願いしました。

足立:吉原さんは、東村さんのどのへんに光るものを感じたんですか?

吉原:思い込み(笑)。『きせかえユカちゃん』なんかは、巻末のおまけがおもしろかったんですよ。「東村さんは男にウケるな」って思ったのはモノローグがないところ。女の人の漫画って思いを四角の中に描くでしょ?「〇〇が好きだと思ったのに…」みたいに"間(ま)"を読ませるんですけど、彼女の漫画には一切それがなかったんですよ。だから、男の人にわかる漫画だって思いました。あとは思い込み。だから、どこがいいっていうのはハッキリわからないですね。

足立:じゃあ、編集の仕事に携わっているから「ここはこうなっているからおもしろい」という見方ではなくて、普通の読者の人が楽しむ感じで漫画を見ているんですか?

吉原:あ、そうですね。学生の時の延長です、ちょっと変わったもの、おもしろいものそして新しい漫画が好きだった。この業界に入って「あ、俺が好きなものってあんまり売れてないのかも」って思いましたね(笑)。今『日々ロック』好きですもん。知ってます?

足立:ちょっとわからないです・・・。

吉原:『日々ロック』おもしろいよ。『ヤングジャンプ』で連載中、あ、ココは絶対使ってください(笑)
注)現在は連載しておりません