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吉原伸一郎編集者 × 足立悠馬 ~WonderNotes Inspire~刺激人

前編

後編


慶應義塾大学法学部3年
趣味:ラグビー観戦
将来の夢:弁護士


『モーニング』契約編集者
1969年生まれ
1993年 駒澤大学経営学部卒業
1993年 株式会社銀杏社  入社
講談社ミスターマガジンに出向
≪現在連載中の『モーニング』、『モーニング・ツー』の担当作品≫
『主に泣いてます』、『GIANT KILLING』、『ひらけ駒!』、『ふらり。』、『きのう何食べた?』、『BEATITUDE』、『ZUCCA×ZUCA』
※上記の作品はインタビュー時の担当で、『ふらり。』は連載終了しました。

足立:慶應大学3年の足立と申します。

吉原:吉原と申します。よろしくお願い致します。

足立:僕、『ジャイアントキリング』が大好きで、今日お話聞くのをすごい楽しみにしてました。

吉原:ありがとうございます(笑)

足立:まず、経歴についてですが、吉原さんが漫画の編集者になろうと思ったきっかけは、いつ頃、どのような時に?

吉原:就職活動の時に、自分が好きな業界に入りたいなと思ったんですね。それで、「この会社に入れば、長く漫画に関わって仕事ができるかもー」と思って編集プロダクションに決めました。あとレコード会社とシンコーミュージックという音楽出版社も受けました。

足立:漫画以外にも音楽関係に興味があったんですか?

吉原:そう、やっぱり学生の時から音楽と本が好きだったので、「とりあえず好きなことを仕事にしようかな」という感覚で選びました。学生時代に好きだった雑誌が『BURRN!』というシンコーミュージックから出版されているヘビーメタルの雑誌で、そこは落とされました(笑)。でも、今はこの業界で良かったと思ってます。

足立:吉原さんは学生時代から、結構アンテナを張って、いろんな分野を覗いてみたりしていたんですか?

吉原:いや、なんというか、当時はサブカル文化を知っているのが、かっこいいという感覚がまだあったんで、みんなが知らないことを貪欲に探すのが当たり前のような風潮でした。僕は今でも漫画っていうのはサブカルであってほしいと思っています。メインカルチャーになって欲しくない。廃れちゃいますから。だから、こういうインタビューは受けたくないんですよ(笑)。内側が出ちゃうと、いけない業界だと思います。テレビ業界もそういう番組がでてきて自分的には面白くなくなった(笑)。なるべく内側がどうなっているのか秘密にしておきたい。

それと当時は漫画読み=(イコール)オタクという感じじゃなかったんですよね。漫画好きは、外国の漫画アメコミやフランスの『BD(ベーデー)』とか、あまり普通の本屋にはない本を、当たり前のように探してた。探す行為が好きだったんです。例えば大友克洋さんが好きになると、そこから彼の過去の作品や影響された作品を遡っていく。……やっぱりオタクですかね。自分が興味あるものを仕事としてずーっと関わっていきたい。就職活動の原点だったかな。

足立:先ほど編集プロダクションに勤めてらっしゃるとお聞きしましたが、出版社とは何が違うんですか?

吉原:えー…給料が違います(笑)。あとは編集長にはなれないです。出版社に「いらない」と言われるまで現場で編集者として働く。それ以外はほとんど一緒ですね。うちのプロダクションは、先輩の実績のおかげで、社員の人と同じ仕事ができます。新人編集者の頃から作品担当として直に作家と漫画を作れます。それともう一つの違いとしては、うちの部署では単行本まで全部自分で作る。社員の方は単行本を作るとき僕たちに依頼してもらう。

足立:その漫画家と編集者の関係なんですが、同じ立ち位置で一緒に漫画を作っていくのでしょうか?それとも違う目線からアドバイスを期待されるものなんでしょうか?

吉原:相手との関係性によりますね。例えば新作の依頼の場合、名前がある漫画家さんだったら、僕はまず自分が欲しいものを三種類ぐらい真剣に考えていて一つ言います。「こういうのを描いてみて下さい!」って。でも、だいたいそこからは選ばれません(笑)。きっかけとして何を書いて欲しいか言わないと始まらない仕事だから、思い切って相手の印象に残るように想像のつかないことを言います。

ただ新人の場合は何を描かせたらいいのかわからないので、相手にいっぱい話させるように質問します。相手の情報が欲しいですから。ツジトモさんは、賞をとってから、なかなか連載がとれなかったんですね。その時は僕とは違う人が担当していたんです。

『ジャイアントキリング』という面白い原作があって作家を探していたときに、当時のツジトモさんの担当者に彼を薦められて、彼の過去の作品を読んで、この人がいいと思いました。その担当経由で原作を渡してもらいました。そこから僕らが担当になりました。……やっぱり立ち位置は相手によってかわりますかね。

足立:『ジャイアントキリング』の原作は原作者と方と一緒に作っていったんですか?

吉原:まず第1話の原作は完成してました、それをツジトモさんが読んで、それが自分の描きたかった漫画の方向性が似ていたらしいです。それでうまく行ったんじゃないかな。僕は個人的にサッカーが大好きで、いつかサッカー漫画をやりたいと思っていました。それが原作者にもあって、ツジトモさんにもあって、もう一人の編集者にもあって、それぞれの力の集合体で立ち上がった作品ですね。

足立:『ジャイアントキリング』は監督が主人公っていうのもそうですし、ジャーナリストにスポットが当たる回とかもあって、これまであまりなかった斬新なスタイルの漫画だと思うんですが、先程もおしゃっていた「新しい物を作る」っていう点で何か意識して心がけていたことはあるんですか?

吉原:やっぱり「リアルにやろう」っていうのは思いました。僕自身がサポーターなので、「同じサポーターに見せて恥ずかしくないものを作らないといけない!」というのは心に決めていました。濃いサポーターって本当にこだわるんですよ。ちょっとしたディティールが違うと全然食いついてこない。

連載が開始した時も、一番初めにリアクションをくれたのは、スタジアムにサッカーを見に来る濃いサポーターの人たちなんです。連載が始まる前にツジトモさんを天皇杯に連れて行って、僕が持ってるマフラーをツジトモさんに巻かせて(笑)「このマフラー巻けば、あそこで写真撮っていいから。もし誰かに文句言われたら〇〇さんの知り合いって言えば大丈夫だから」って写真を撮らせたりしてましたね。

取材といえば、『ジャイアントキリング』のスタジアムのモデルの場所は柏レイソルの日立台のスタジアムなんですけど、普通Jリーグって連載前の漫画の取材はなかなかさせてくれないんですね。どんなものになるかわからないから。でもレイソルさんとヴェルディさんは取材がOKなんですよ。J2に落ちた経験があるからなのかもしれません(笑)。「うちは隠す物ないよ」って言ってくれたので、実際使っているロッカールームとかも見せてもらいましたね。今は、そういうディティールに選手が驚くこともあります。

足立:次に“ジャイキリ”の内容についてなんですが。

吉原:“ジャイキリ”ばっかり(笑)

足立:本当に好きで、たくさんお聞きしたいことあるんです!あの、監督を主人公にしているのに、キャラクターがとっても個性的で、主人公チームの『ETU』以外でも初めて登場するチームでも、1試合分読んでいると「コイツ、はじめに〇〇って言っていたヤツだな」っていうのが印象に残ってたりして、それがすごい引き込まれるなと思ったんです。

吉原:それはツジトモさんの力です。連載がとれなかった時から、似顔絵を描いたりして、キャラクターの引き出しをたくさん作っていた。原作をもらったときに「描ける」って思ったらしい。今、足立くんに言われて改めて「ツジトモさんすごいんだなあと思いました。ETUのレギュラー11人でも描きわけ大変ですからね。しかもビックリしたのが、カメラワーク。選手経験のある解説者に「漫画を1コマ見ただけでどっち側にボールがあるのかわかる」って言われました。

どうボールが動いているかって、漫画の中では誤魔化そうと思えばできるんですけど、ツジトモさんはボードを使って流れと見え方をアシスタントとかにも指示してます。「ここからあっちを見るからボールがこう見えて、相手がこうで」という感じで…。選手やコーチが感心するんですよ。「こんなにボールの動きが正確なサッカー漫画はない!」って。ツジトモさんの演出力ですね。