酒井秀行ディレクター × 白田有沙~WonderNotes Inspire~刺激人
75年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学第一文学部卒。1999年テレビ朝日に入社。『報道ステーション(月~金21:54~23:10』のスポーツコーナーのチーフディレクターを務める。大学時代に箱根駅伝の出場経験を持つ。
慶應義塾大学経済学部3年。
慶應義塾大学「スポーツ新聞会」に所属。主に学内の体育会を中心に取材活動を展開している。
白田:慶応義塾大学経済学部3年の白田有沙と申します。本日はよろしくお願いいたします。
酒井:よろしくお願いします。テレビ朝日スポーツ局の酒井と申します。
白田:インタビュー慣れしてないんですけど、よろしくお願いします。
酒井:僕もインタビューされるのは慣れていないので(笑)
白田:現在はどのようなお仕事をされてるんですか?
酒井:『報道ステーション』のスポーツコーナーを作っています。
毎日のニュースを作ったり、特集企画のVTRを作ったり。多くのディレクターがいるんですけども、それを全体的に見ていくチーフディレクターをやっています。
「原監督のこの采配に注目した特集をつくろう」とか全体的なことから、「このナレーションはこうした方がいい」とか細かいところまで、いろいろとやってます。
白田:そもそもディレクターというのはどのような仕事なんですか?
酒井:例えばスポーツのディレクターであれば、スポーツの現場があるわけです。そしてテレビを見てくれる人がいるわけです。その間に立ってスポーツの現場を切り取る仕事です。
白田:切り取る!?
酒井:どこをどう切り取って、何をどう表現するか。具体的な作業でいうとまず取材をします。それを編集して、さらにナレーションを吹き込んだり音楽を乗せたりして、1つのVTRに仕上げて放送するんですが、プロ野球なら、カメラ3台で、時間にして3時間の取材をした中から、1分から3分くらいのニュースを作る。つまり、ほとんどの部分は放送されないんですね。切り取っているんです。
何を伝えるか、伝えるべきか、ディレクターが選んで切り取っているんですね。そこに個性が出るし、勝負でもある。さらに放送する時にはVTRだけでなく、例えば『報道ステーション』であればスタジオでの展開もあります。古舘さんや武内絵美アナウンサーのいるスタジオの空間も含めて、どう視聴者に伝えていくか。そういうのを考える仕事です。
白田:ありがとうございます。では、テレビ局にはディレクターさん、記者さん、アナウンサーさんなど様々な方がいらっしゃると思うんですけど、どのような雰囲気の職場なのですか?
酒井:スポーツは、すごくやわらかいとこだと思いますよ。悪く言うと、だらしない(笑)
白田:具体的には?(笑)
酒井:スーツを着てる人がいない(笑) あとは朝遅い。午前中はほとんど人がいませんね。番組も夜ですし、取材する現場も、プロ野球のように午後から動き出すことが多いんです。で、夜になると、試合をモニターで見ながらあっちで歓声が沸いたり、こっちでため息がもれたり、公私混同で応援したり、放送に向けてみんなテンションが上がってくる。で、朝は起きれない(笑)
白田:(笑)最初はそのような生活に慣れないっていうことはありませんでしたか?
酒井:意外とそんなことはなかったです。学生の方で、マスコミの仕事やテレビの仕事は不規則で大変なんじゃないかって思ってる人も多いと思うんですけど、実際に自分がその環境に置かれるとすぐに慣れますよ。いま思えば最初は大変だったんでしょうけど。眠気よりも危機感が勝るというか、「このVTRで大丈夫だろうか?」とか、「ちょっとでも良くしたい!」とか、「やばい間に合わない!」とか(笑)
白田:(笑)
酒井:1つ何かをやり遂げると、バタッてなっちゃう時もありますけど。やってる時は、体力的に辛いとか、感じる余裕もないです。
白田:今度、テレビ朝日に、『Vドリーム』という、学生が3分以内の動画を投稿する番組が始まるということを聞いたのですが、スポーツディレクターさんから見た、動画を撮る際のアドバイスはありますか?
酒井:アドバイスになるか分からないんですけど、ひとつは、映像というのは常に音とセットなんです。半分は音なんです。そこをちょっと意識するといいかもしれないです。
白田:意識しないと映像に目が行きがちですもんね。
酒井:実は音と画って同じくらい大切なんですよ。動画を撮る時に、現場でどんな音がしているのかを伝えるのは大事です。ナレーションも音ですよね。あえて無音にするっていうのもある意味では音ですよね。編集のリズムも動画に乗せる音楽によって変わってきます。逆に編集や撮影のリズムによって乗せる音楽が変わってきたりもしますよね。なので、ちょっと音を意識するといいんじゃないかって思います。
白田:はい。
酒井:あともうひとつは、目に見えないものを表現すること。いま白田さんが考えていることとか。仮に悩んでいたとしたら、悩みをどう表現するか。
白田:目に見えないですもんね。
酒井:例えば、僕がいまここで泣いていたとします。泣いていたらどう撮りますか?
白田:あまり音楽とかを乗せずに、泣いているリアルな音だったりを撮るかなぁ。
酒井:なるほど、でもどう撮るかの前に、まずは何の涙なのかを見極めなきゃいけない。白田さんの話に感動して泣いているのと、仕事で嫌なことがあって、1人こもって泣いているのとでは撮り方も変わってくるんです。白田さんの話に感動して泣いているのであれば、白田さんと話していますっていう状況が分かったほうがいいですよね。そしたら、白田さんの後ろの方から白田さんをかすめた感じで撮ってみるとか。
あるいは、仕事で落ち込んでここで泣きだしたとしましょう。そしたら部屋のドアの外から泣いている姿をこっそりと撮った方が気持ちを表現できるかもしれない。逆に競馬で当たって、喜んで泣いているのであれば、接近して撮ったほうが伝わるかもしれない。
白田:なるほど、そうですね。撮り方によって伝わり方が全然違いますもんね。
酒井:最初にそのシチュエーションを見極めることが大事。特にスポーツなんかは台本がありませんから、自分で見極めなきゃいけない。その上で、喜びとか、悔しさとか、緊迫感とか、目に見えないものをどう撮ったら表現できるかを、突き詰めるといいんじゃないかなと思います。これ…アドバイスになるのかなぁ。
白田:素人目線で聞いて、すごく納得しました。
酒井:よかった(笑)例えば、こんな面白い画を撮った人がいるんですよ。ピッチャーとバッターが対決する場面なんですけど。普通、横からのアングルでバッターを撮る時、バッターの目の前の方を空けると気持ちいいんですね。バッターの目の前を空けることで、その先にあるものを想像させやすいので対決の構図になるんです。
だけどあるカメラマンは、バッターの頭の後ろのスペースを大きく空ける構図で撮ったんです。そのバッターは阪神の鳥谷選手だったんだけど、この画は!?とカメラマンに聞いたら「彼は打席でものすごくいろんなことを考えている。その考えていることを表現したかった。その時に僕のイメージでは、鳥谷選手の頭の後ろに“モヤモヤモヤ”という漫画の吹き出しみたいな、考えているものが見えるような気がした。だから頭の後ろ側を空けた」って言ったんです。
なるほどそういう視点、そういう表現もあるのか!と。そういう撮り方をする想像力、目に見えないものをどう表現するかという部分を考えると、すごく面白いんじゃないかと思います。
白田:なるほど。