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酒井秀行ディレクター × 白田有沙~WonderNotes Inspire~刺激人

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75年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学第一文学部卒。1999年テレビ朝日に入社。『報道ステーション(月~金21:54~23:10』のスポーツコーナーのチーフディレクターを務める。大学時代に箱根駅伝の出場経験を持つ。


慶應義塾大学経済学部3年。
慶應義塾大学「スポーツ新聞会」に所属。主に学内の体育会を中心に取材活動を展開している。

白田:他の表現者の方と接すると刺激を受けると伺ったんですが、いま最も刺激を受けている人はどなたですか?

酒井:松岡修造さんですね。

白田:熱い方ですよね。どのような部分で刺激を受けるんですか?

酒井:熱いけども、冷静で深いんですよ。ご自身もアスリートとしての経験もあるし、キャスターとしても一流です。物事や選手を見抜く目は、すごく刺激になります。一緒に仕事をさせていただいて、修造さんが考えていることと、僕らが考えていることが合致した時は、ものすごい力が出る。逆に、中途半端はすぐ見抜かれます。ある意味、修造さんとの真剣勝負です。

オリンピックでアスリートが人生を賭ける瞬間や、北島選手の過程も、ずっと一緒に取材させていただきました。修造さんからは「酒井君と仕事をすると、なかなか終わらないから食事もできない」とか言われるんです、修造さんは食事にも一切妥協しないから(笑)とは言いながら、目指すものが一緒だから、そこは理解していただいているみたいです。

白田:松岡修造さん以外で、刺激を受けた方はいらっしゃいますか?

酒井:刺激だらけですよ。ずっと一緒にチームを組んできた同期のカメラマンや編集マンとは、ペーペーの頃から、“何かやってやろうぜ!”という気持ちをずっと共有してきたので、ほんと“相棒”って感じで、いまでも自分の宝です。あと、いつもVTRに音楽をつけてくれる音楽演出の大先輩からは、「テレビやスポーツにおける音の大切さ」を学びました。

その人は、VTRに音楽を付ける時、“活躍するシーンだからノリのいい曲”とか、“泣くシーンだから悲しい曲”とか、そういう単純な選曲はしない。その選手や状況を深く理解して、なおかつ曲の持つストーリーや意味を考えているんです。例えば、アスリートが次の目標へ向かっていくシーンに、「新しい日々が始まる・・・」という英語の歌詞を、さりげなく当てていたり。ある作曲家がこういう思いを込めて作った曲だから、この選手のこの心境に合うはずだ、とか、とても愛情を込めて選曲をしてくれるんです。

白田:すごい!本当にプロですよね。他に、仕事仲間の方で刺激を受ける人はいますか?

酒井:さっきお話しした、「俺は抜かせない」と新人の僕にいきなり宣戦布告してきた先輩です。

白田:あっ。気になります(笑)

酒井:その先輩は当時サッカー担当で、中村俊輔選手をよく取材していたんですが、どこの誰よりも中村選手を観察していたんです。それこそ何日も会社に泊まり込み、ずっと試合の映像を繰り返し観ている。「何でそこまで」っていうくらい。

で、先輩が中村選手にインタビューするときに、僕も同行させてもらったんですけど、そこで先輩が突っ込んだのは、ある試合で中村選手がすごく綺麗なループシュートを決めたシーンでした。

先輩は中村選手に「あのループシュートを決める10分前に同じ位置からミドルシュートを打ってたよね?なぜ、あそこで打ったの?」と尋ねたんです。すると中村選手が二ヤッと笑って「良く見てるね。あのミドルシュートはジャブだよ」って。ミドルシュートをわざとキーパーに印象づけておいたから、その後、同じ位置からのループシュートを決められた、あのミドルは伏線なんだ、ジャブなんだ、という核心を打ち明けてくれたんです。

僕はそのやりとりを目の当たりにして「このために先輩は映像を見まくっていたのか!」ってゾクっとしたんです。もし中村選手に「あのループシュートは見事でしたね」とか安易に聞いても、あの答えは出てこなかったと思うんですよ。相手の心をこじ開けられたのは、自分の目で見抜いて、仮説をぶつけたからなんです。ネタとかスクープとか真実っていうのは、誰かが教えてくれるものじゃない、自分で「見抜いて」「見つけて」取るものなんだということを、新人のときにその先輩の背中から学んで、影響を受けたし刺激になりましたね。

白田:さすがですね…。

酒井:刺激という意味ではショーもよく見ますね。シルク・ド・ソレイユを観たりします。

白田:私も観たことあります。アメリカのディズニーランドで「ラ・ヌーバ」というショーを見てすごく感動しました。

酒井:僕もショーを見るたびに、感動すると同時にテレビではできない表現をいっぱい感じて刺激を受けるんです。でもそれは、ちょっと悔しかったりするんですよ。例えば僕が好きなシルク・ド・ソレイユの「O(オー)」という水を使ったショーであれば、劇場に入った時の水の匂いや、水が吹き出した時のひんやりする感じとか。

これってテレビではどうやったら伝えられるんだろう、って考えて、答えが見つからなくて、ちょっと悔しいんです。でも、その「O(オー)」に出演している友人がいるんですけど、彼女は逆に、「映像はすごい」って言うんですよ。「たいしたことがない動きでも、カメラの撮り方と編集で素晴らしいパフォーマンスに見えたりする」って言うんです。そういう人達や世界と接すると刺激を受けますよね。